はじめに - 普通に勝負したら普通に負けた。やっぱり武器を活かさないと
みなさんは、難しそうな試験やプロジェクトに挑戦する際、どのような計画を立てますか?
公認会計士試験は、一般的に合格まで2〜3年を要すると言われる難関試験です。膨大な学習範囲と闘う中で、「どうすれば効率的に合格できるのか」という問いは、全ての受験生にとっての永遠のテーマではないでしょうか。
私自身、1回目の受験ではこの問いに対する答えを見いだせず、「なんとかなるだろう」という楽観的な態度で挑み、完膚なきまでに叩きのめされました。私の敗因は明白でした。それは、「短期合格」という甘美な言葉に惑わされた慢心と、学習における 「復習」「分散学習」の軽視です。
私はその後、深く反省し、今一度この問いに対して真剣に向き合いました。時間もしっかりかけました。
そして私が辿り着いた結論は、自分の強みである「管理」を武器にして、自動的に復習と分散学習を実行するシステムを構築することでした。
本記事では、私が1回目の失敗から何を学び、なぜ「学習管理システム」の構築に至ったのか、そのプロセスについてお話しします。なお、具体的なシステムの中身については次回以降の記事で扱います。この記事は自分語りが多くなりますので、ご注意ください。
1回目の不合格から学んだ「自分は特別ではない」という当然の現実
「短期合格」という甘美な誘惑と確証バイアス
私が会計士試験の学習を始めたのは大学3年の春頃でした。当時の私は、簿記2級を取得していたことや、それまでの人生で比較的「勉強」が得意だったことから、合格に対してある種の慢心を抱いていました。
しかも、インターネットで合格体験記を検索すると、「半年〜1年で短期合格!」という華々しい記事が目に飛び込んできます。本来、合格まで2〜3年かかるのが一般的であるにも関わらず、私はそうした 「生存者バイアス」のかかった情報ばかりを集め、「自分も彼らのように短期合格できるはずだ」と信じ込んでしまいました。
ここで、冷静に「確率論」の視点から考えてみましょう。
一次試験の受験者数は、昨今12,000人ほどで推移しています。仮に、1年ほどで短期合格できる確率が0.1%(1000人に1人)という極めて低い数字だったとしても、受験生全体の規模(n=12,000)で考えれば、「少なくとも1人が短期合格する確率」は、約99.9%(=1-(0.999)^12000)になります。「少なくとも10人」が現れる確率でさえ、約75%もあります。
加えて、そのような短期合格を果たした人は、その華やかな実績を公表したくなるものです。予備校側も当然、そのような才能を取り上げ、「当校ならこれだけの短期間で合格できる!」と大々的に宣伝します。ビジネスの視点から見れば、これは極めて合理的な行動です。私が短期合格者であっても、予備校の経営者であっても、間違いなくそうするでしょう。
つまり、ネット上に「短期合格者」が存在するのは、確率論的に 「必然」 なのです。
しかし、ここで私は決定的な誤解をしていました。「12,000人という母集団の中に短期合格者が現れる確率(ほぼ100%)」と、「私自身が短期合格できる確率(0.1%)」を混同してしまったのです。当時は「事後確率」といった概念も知らず、目の前の華やかな事象だけを見て、自分もその例外になれると錯覚していました。
試験の惨敗と2つの壁
当然、その結果は惨憺たるものでした。9ヶ月の準備で一次試験に望むも、当然のように不合格となりました。
不合格になって振り返ってみますと、「自分は短期合格できるのかもしれない」という根拠のない自信に基づき、私は無謀なスケジュールで学習を進めていました。授業の配信についていくのでやっとで、最も重要なアウトプット(復習)が疎かになっていました。一次試験直前の模試ではC判定やD判定を連発し、本試験でも当然のように不合格となりました。
試験に落ちて初めて、私は2つの大きな壁に直面していたことに気づきました。
- インプットの壁: 膨大な範囲を網羅し、体系的に理解することの難しさ
- アウトプットの壁: 理解した内容を記憶し、試験で使える知識として定着させることの難しさ
特に深刻だったのは後者です。講義を受けること(インプット)に精一杯で、記憶を定着させるための「アウトプットの仕組み」が完全に欠落していたのです。
迷いから再挑戦へ
不合格という結果を受けて、私は自信を喪失しました。試験自体が怖くなってしまいました。当時は不合格になる夢を何度かみて、冷や汗をかいた記憶があります。
もともと大学時代には、ITのインターンや国際系の学生団体での活動など、会計以外の分野にも興味を持っていました。そのため、「本当に会計士を目指すべきなのか」という迷いが生じ、一度試験から離れて通常の就職活動を行うことにしました。
その中で、ITエンジニアとしての就職活動や、外資系投資銀行での長期インターンなどを経験し、自分の適性や本当にやりたいことを探っていきました。業界研究やES添削、GD対策などもしっかりこなしていきました。
しかし、紆余曲折を経て、最終的に私は会計士試験への再挑戦を決意しました。詳しく話すと長くなるので控えますが、前回の失敗を踏まえて、今度こそ本気で取り組もうと意志を固めたのです。
「参照クラス法」という視点の欠如
しばらくのブランクを経て、再度受験に挑戦する決意をしたタイミングで、改めて前回の失敗を振り返りました。その結果、私は『BIG THINGS』という書籍で提唱されている 「参照クラス法」 という概念を、当時全く持ち合わせていなかったことに気づきました。
人は作業にかかる時間を、実際よりも少なく見積もって計画を立ててしまいます。
(中略)
だからこそ、参照クラス法を用いるのが効果的です。つまり、過去の事例をたくさん集めて統計的に平均値を算出し、それをベンチマークとしてそのまま採用します。ベント・フリウビヤ、ダン・ガードナー 著/櫻井祐子 訳『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』(サンマーク出版、2024年)より
統計的に見れば、私の合格確率は決して高いものではありません。それにもかかわらず、私は「自分だけは例外だ」という調整を勝手に加えて、2〜3年という平均値を完全に無視してしまっていたのです。
この失敗を通じて、私は強烈な教訓を得ました。
「自分は決して特別な存在ではない。他人と同じやり方をしていては、同じように失敗するだけだ」
学習法の研究:復習と分散の重要性
再挑戦を決意した私は、まず「どうすれば知識を定着させられるのか」という方法論(How)の確立から始めました。
学習法に関する書籍や論文を読み漁る中で、科学的に裏付けられた2つの重要なキーワードに出会いました。それが 「復習」 と 「分散学習」 です。
記憶のメカニズムと忘却曲線
人間の脳は、一度覚えただけではすぐに忘れるようにできています。適切なタイミングで復習を行わなければ、記憶は急速に失われていきます。
逆に言えば、「忘却しかけたタイミングで記憶を呼び起こす」ことを繰り返せば、記憶は長期記憶として定着します。これが「分散学習」の効果です。
- 1日後
- 3日後
- 7日後
- 14日後
- ……
このように間隔を空けて復習することで、脳はその情報を「生存に必要な重要な情報」と認識し、定着率が飛躍的に向上することが科学的に示されています。
この理論を理解したとき、私は1回目の失敗原因が論理的に説明できることに気づきました。
当時の私は、ただ講義を消化するだけで、復習のタイミングなど全く意識していませんでした。たまたま目についた単元の復習をする、という調子でしたし、一切の復習戦略を有していませんでした。「やったつもり」になっていただけだったのです。
「復習のタイミングをコントロールできなければ、学習効果は最大化できない」
これが、私が至った結論でした。
強みを活かす - 管理を武器にする
自分の「競争優位性の源泉」は何か?
では、どうすればこの「復習と分散学習」を日々の学習に落とし込めるのか?真剣に考えました。
誰しも頭では「復習が大事」と分かっています。しかし、膨大な学習範囲の中で、どの論点をいつ復習すべきかを管理し続けるのは至難の業です。ここで多くの受験生が脱落していきます。
ここで私は、自分自身の 競争優位性の源泉について考えました。
1回目の失敗で痛感したように、私は決して特別な存在ではありません。模試等の成績から考えますと、むしろ劣等生の区分に位置していたと思います。
普通のやり方で勉強していても、他の受験生以上に時間がかかるだけです。当然成績も、平均を上回るものは期待できないでしょう。だからこそ、どこかで優位に立てるもの、自分だけの武器を見つける必要がありました。
自分には何ができるのか? 他人よりも秀でている部分はどこか?
思案の結果、たどり着いた答えが 管理でした。
ITスキルと管理への偏愛
私は昔から、物事を整理・管理することが得意でした。
大学時代には、スプレッドシートで家計簿管理システムを自作したり、GoogleカレンダーとNotionを連携させてタスク管理を行ったりと、ITツールを駆使して独自の仕組みを作ることが趣味でした。
長期インターンでは、マーケティングデータをSQLやPythonを駆使して分析することも実践していました。フリーランスとして業務改善を請け負ったことだってあります。
「他の受験生が、『なんとなく』の感覚で勉強している間に、自分はITツールを駆使して、システムの上で学習を進められないか?」
そう考えた瞬間、点と点が線で繋がりました。
「管理」による学習の最適化
私が目指したのは、学習という行為そのものに ツールによるレバレッジをかけることです。
- 何を、いつ、どのくらい勉強したかを全て記録する
- 忘却曲線に基づいて、最適な復習タイミングを自動的に算出する
これにより、学習計画を立てるという 意思決定のコストを限りなく0にし、純粋な学習のみにリソースを集中させることができます。
結び - システムの実装へ
1回目の失敗で味わった挫折感。そこから学んだ科学的学習法の理論。そして、自分の強みである「管理」の気づき。
これら全てが組み合わさり、私は独自の「学習管理システム」の構築に着手しました。それは単なる記録ツールではなく、私の合格を支えるための、まさに「外部脳」とも呼べる存在となりました。
次回の記事では、学習管理システムを構築する上で最も重要な「何を管理するのか」というKPI設定の話から始めます。どのような指標を追えば、復習と分散学習を効果的に実現できるのか、その設計思想について解説します。



